透熱灸と温灸による不妊治療における効果の比較に関する報告~学会報告より

10月6日に開催された(公社)全日本鍼灸学会九州支部学術集会で発表した「透熱灸と温灸による不妊治療における効果の比較に関する報告」を本ブログでさせていただきます。

研究背景ですが不妊治療は近年、鍼灸療法が補完的な治療法として注目されており、特に自律神経を刺激することで、血流が改善されホルモンバランスの調整が期待されています。

そのような中で鍼治療に関する研究報告は多くみられるようになってきていますが、お灸に関する研究報告はまだまだ少ないのが現状です。

本研究では、透熱灸、(医道の日本社の灸点紙を使用)と温灸、温灸はカナケン社製の電子温灸器になります。それぞれの治療効果を妊娠率と胚盤胞到達率に着目して比較しました。

対象は透熱灸と温灸を用いて当院不妊鍼灸治療を受けた52名の患者さんです。
データはそれぞれ異なる期間で収集されたもので、透熱灸のデータは令和 1 年 5 月から令和 4 年 2 月まで、温灸のデータは令和 4 年 2 月から令和 6 年 4 月までの約 5 年間の期間を対象としています。

研究方法ですが
治療は鍼と灸の組み合わせで行い、使用穴はスライドの通りです。これらに刺鍼し、透熱灸または温灸を施しました。

鍼治療に関しては共通で、施灸のみ透熱灸と温灸の違いということになります。分析では、それぞれの治療後の妊娠率と胚盤胞到達率を比較し、年齢層別の効果も検討しました。

まず全体の妊娠率の比較結果をご覧ください。

透熱灸を受けた患者の妊娠率は35名中24名が妊娠し、68%で、温灸を受けた患者の妊娠率は17名中8名が妊娠し、47%でした。

結果は、
透熱灸が温灸よりも妊娠率の向上に大きな可能性があることを示唆しています。この差はそれぞれ透熱灸 温灸の作用機序の特性に由来する可能性が考えられます。透熱灸は深部への刺激を与える可能性や高温に反応するTRP V1およびV2チャネルの活性化などを考慮すると卵巣や子宮の血流改善などに関与しやすいのかもしれません。

次に各治療法の年代別妊娠率です。

特に20代では、どちらの治療法でも100%の妊娠率を示していますが、30〜34歳では、透熱灸での妊娠率は50%、温灸では62%でやや温灸が高く、35〜39歳では、透熱灸の妊娠率は50%、温灸では60%であり、こちらも温灸の方がやや高い結果となりました。

40歳以上では透熱灸が55%、温灸が0%という結果で透熱灸の有効性が際立っており、透熱灸は特に40歳以上の高齢女性に対して効果的であることがいえます。
これは透熱灸の深部刺激が生殖機能の改善に寄与しているためと考えられます。

一方で、30歳未満の若年層においては、生殖機能が既に安定しているため、強い刺激が不要であるか、逆に体に負担をかける可能性があると考えられます。

透熱灸と温灸が妊娠を望む女性に対して異なる効果を持ち、年齢に応じた正しい施術の選択が妊娠率向上に寄与できる可能性を示唆しています。

次に、総採卵数からみた胚盤胞到達率の比較です。

透熱灸では、治療前の29%から治療後に38%に向上しました。内訳は下の表のとおりになります。

一方、温灸では、治療前の22%から治療後に18 %とやや低下しました。

ここでも透熱灸の深部への熱刺激は胚盤胞獲得に対して血流改善や神経機能の調整を促進し、胚盤胞の獲得をサポートしていると考えられます

20代では来院前20%、来院後9%でした。30〜34歳では来院前26%、来院後50%、35〜39歳では来院前48%、来院後60%、40歳以上では来院前41%、来院後46%でした。


次に透熱灸の胚盤胞到達率を年代別に見ると内訳は下の表のとおりとなっております。

20代では低下したもののそのほかの年代では上昇し特に40代でも向上しているところには注目です。

次に温灸の胚盤胞到達率を年代別に見ると、

20代は採卵実績がなくデータなし。30〜34歳では来院前33%、来院後40%、35〜39歳では来院前10%、来院後29%、40歳以上では来院前50%、来院後6%でした。


温灸は若年層では効果はあるものの高齢女性に対しては慎重な施術が求められることが示唆されました。ただしサンプル数が少ないですので今後の研究課題となります。


透熱灸の治療回数と期間についてです。

透熱灸を受けた患者の平均治療回数は約28回、平均治療期間は8.8ヶ月でした。
週平均では1.2回/週(5.8日に1回)

透熱灸の効果が現れるまでには、継続的な施術が不可欠であることが示されており、特に妊娠を目指す患者にとっては計画的な治療が重要です。

また、治療期間が約9ヶ月に及ぶことは、身体の自然な周期に合わせた長期的なアプローチが必要であることを反映しています。

結論です

今回の研究では、透熱灸が温灸よりも妊娠率および胚盤胞到達率において高い効果を示していることが確認されました。

特に40歳以上の高齢層の患者において、透熱灸が有効であることが示唆され、これにより、透熱灸は不妊治療の補完的なアプローチとして非常に有用であると考えられます。

ただし今後の展望として若年層では温灸のほうが効果が高いなどの違いもあり患者の個別の状況に応じた治療プランの策定が求められます。透熱灸と温灸の違いを明確にすることで、患者に最適な治療法を提供する手助けとなることが期待されます。

今後もさらなる精度の高い研究が行われデータを蓄積することで、より多くの患者に有効な治療法が確立できるよう継続していこうと考えています。

※さらに考察を加えたものはこちらから

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