透熱灸と温灸による不妊治療の効果の比較に関する報告~学会発表から
先日開催された学会での発表をそのまま載せます。

本報告の目的です
皮膚に直接、灸をすえる『透熱灸』と、
電子機器による間接的な『温灸』の不妊治療における効果の比較を目的としております。
分析は、それぞれの治療後の妊娠率と胚盤胞到達率の比較、また年齢層別の効果についても検討しました。
対象は当院で不妊治療を受けた52名の患者です。
透熱灸群は35名、治療期間は2019年5月から2022年2月。
温灸群は17名で、2022年2月から2024年4月にかけて施術を行いました。
施術内容ですが
治療はおおよそ週に1回の治療で鍼と灸の組み合わせで行い、
全身調整と生殖器系への局所刺激の両面からアプローチしました。
鍼は、所属する日本生殖鍼灸標準化機関 JISRAM の共通手技でもあるパルスを卵巣や子宮の血流促進を目的に
下肢や腰部に用いております。
その他、スーパーライザーを星状神経節や腹部、腰部に照射して
自律神経調整と卵巣子宮の血流促進を目的にしております。
以上はほとんどの症例で共通しており、
灸のみ透熱灸と温灸の違いということになります。
透熱灸群では、熱感をしっかり伝えつつ、皮膚損傷を防ぐ目的で
灸点紙を介して3壮ずつ施灸しました。
一方、温灸群では、カナケン社製の電子温灸器を用いて温度設定は44℃に保ち、
心地よい熱感が得られるように調整しつつ、施灸時間を10分確保しています。

まず全体の妊娠率の比較結果をご覧ください。
透熱灸を受けた患者の妊娠率は68%で、35名中24名が妊娠し、
温灸を受けた患者の妊娠率は47%で、17名中8名が妊娠という結果でした。

次に各治療法の年代別妊娠率です。
年代別では、
透熱灸群の20代が100%、30〜34歳が83%、35〜39歳が57%、40歳以上は55%でした。
温灸群は20代が100%、30〜34歳が62%、35〜39歳が40%、そして40歳以上は0%でした。

次に、総採卵数からみた胚盤胞到達率の比較です。
胚盤胞到達率では、透熱灸群が治療前29%から治療後38%へと改善。
一方、温灸群では治療前22%から治療後18%へと低下する結果でした。
内訳は下の表のとおりになります。

次に透熱灸の胚盤胞到達率を年代別に見ると、
20代では来院前20%、来院後9%)と低下しましたが
その他の年代では来院後が上昇し
特に40歳以上でも来院前41%、来院後46%)
と上昇したことが確認されました。
内訳は下の表のとおりとなっております。

次に温灸の胚盤胞到達率を年代別に見ると、
20代は採卵実績がなくデータなし。
30代ではそれぞれ上昇が認められました。
しかし40歳以上では採卵数が少なく比較は難しいものの
来院前50%、来院後6%
と低下する結果となりました。

透熱灸が温灸よりも高い妊娠率および胚盤胞到達率を示した背景には、
透熱灸の特徴である短時間かつ局所的な強い熱痛刺激が影響していると考えられる。
熱痛刺激は痛覚神経を介して視床下部に入力され、
自律神経を介し生殖機能の改善に寄与した可能性がある。
また、ヒートショックプロテインの誘導による卵胞細胞の保護作用
も寄与していると考えられます。
このように神経系・免疫系・細胞保護機構を同時に活性化できる点が、
とくに高齢女性の生殖機能改善に有効に働いたと考えられます。
一方、温灸は広範囲に持続的な温熱を与えることで
副交感神経を優位にし、血流改善やリラックス効果を高めると考えられます。
このことから若年層の血流やホルモンバランスを整えるには十分な効果が得られたと考えられます。

まとめです
今回の報告では、
透熱灸が温灸よりも妊娠率および胚盤胞到達率において高い効果を示していることが確認されました。
特に40歳以上の高齢層の患者において透熱灸が有効であることが示唆されました
ただし透熱灸と比較すると温灸のほうが効果が劣るように感じるが
若年層に限っては一定の効果は期待できると考えます。
今後の展望として
今後も症例を積み重ねながら検証を続け透熱灸と温灸の違いを明確にすることで、
患者に最適な治療法を提供する手助けとなることが期待されます。